ポール・クルーグマン
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(ISBN : 4152089318, 2008-06)
経済格差は、グローバル経済化が理由ではない
「グローバル経済化が経済格差の原因」のように、言われている。
しかし、実際はそうではなく、政府の政策による。
「経済学」はいかにもうけるかを考える学問
「政治学」は、いかに儲けを配分するかを考える学問
アメリカは、所得税を最高税率70%程度から、30%程度に下げた。
国民医療保険制度は、「高所得者から、税金を取り、低所得者に配分するシステム」として、
アメリカでは、いまだに導入されていない。
日本でも、所得税の最高税率は下げ続けられた(今は、40%だったはず)。もうけても、株の儲けにかかる税額は一律10%(優遇中)。
経済格差は「経済」の問題ではなく、「政治」の問題である。
好著。『貧困大国アメリカ』と同時に読むと、全体像が理解できる。
(レビュー日:2008-11-03)
政治のイニシアチブによる格差
ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者による著作。
クルーグマンの著書を読んだことがなかったのでとりあえずこの本から読んでみた。読んでみるとなるほど、この時期にノーベル賞に選ばれる人だと思えた。
タイトルどおり、筆者はアメリカの格差が作られたもので、それは1980年代以降の話としている。また、人種差別と格差経済の関係性のなかで右派ムーブメントの台頭を論じており、興味深い。
私は、大恐慌、ニューディール政策、WWU、ベトナム戦争、新自由主義の台頭、レガノミクスというおおまかな歴史の背景である経済を、ニューディール後は戦費増大で経済が行き詰まり、そこに新自由主義が台頭した、、。と解釈していた。
クルーグマンはこの新自由主義の台頭を説明するのに、経済の変化があってそれに対応すべく政治が動くという固定観念をくつがえしている。
つまり、先に政治的ムーブメントがあって経済政策を動かし、現在の「格差」という経済状況が「つくられた」と主張している。
大多数の有権者にとり不利な主張をする集団や政策が「政治」のイニシアチブで台頭したということは大きな矛盾を孕んでいる。「政治」が民主主義により運営されている以上、大多数の有権者の不利な政策が通るはずがないのである。
これを見事に説明していることが本書の秀逸な点である。
右派ムーブメントの起源とその戦略の柱である、「白人層の不満・不安」と「共産主義に対する被害妄想」を刺激することがあげられ、その台頭の歴史を詳細に解説している。
また、「民主主義」に関しても選挙制度やマスコミの問題を挙げて、いかに民意が反映されないかを指摘している。
今日の経済学の潮目の変化を象徴する、お薦めの一冊です。
しかし、散々、新自由主義・シカゴ学派を持ち上げておいて、新自由主義経済政策が行き詰まるとこれに批判的な経済学者を評価するノーベル経済学賞ってどうよ。
(レビュー日:2008-10-17)
なぜアメリカはこんな酷い国になってしまったのか
各種統計データを示しながら、いかにアメリカの格差が拡大してきたか、その理由は何か、ということを深掘りしています。
ニューディール政策と第二次世界大戦の戦時統制の影響で、戦後のアメリカ社会は、貧富の差が少ない社会を築くことができました。しかし、著者によれば、レーガン大統領の登場あたりから政治は一部の富裕層が牛耳るようになり、格差は拡大していきました。
貧困層が政治的に力を持たないよう、「保守派ムーブメント」は移民に選挙権を与えないように画策し、さまざまな方策で低所得者の投票率を上げないように工夫しています。
法律的に違法とはいえなくても、人道的とはいえない「保守派ムーブメント」の行動の根底にあるものは何なのか。
著者のクルーグマンは、
「すべての根源は、アメリカの人種差別問題にある」
と結論しています。
貧しい白人を救う政策を実行すれば、貧しい黒人やヒスパニックも一緒に救ってしまう。黒人やヒスパニックを救済するくらいなら、貧しい白人を放置しておくほうが良い。口に出して言わないまでも、多くの白人の根強い人種差別意識が格差を縮めることを拒否している、というのがクルーグマンの主張です。
クルーグマンはアメリカの暗い時代は変わろうとしている、といいます。
アメリカでは白人の人口がが減少し、多くの白人の意識が人種差別的でなくなってきた、という彼の洞察が事実なら、アメリカ社会は「格差が縮小する」という大きな転換点を迎えることでしょう。
折しも、アメリカはもうすぐ大統領選挙。私がアメリカ人だったら、本書を読んだからには、迷わずオバマに投票するでしょう。
アメリカをこんなに酷い国にしてしまったのは「保守派ムーブメント」に支配された共和党のせいなのか。そして、その政治的支配は、転換点を迎えようとしているのか。
答えが出るのは、もうすぐです。
(レビュー日:2008-10-08)
ポール・クルーグマン吠える
おもしろく読めました。
中産階級が徐々に形成されたのではなく、数年で一気に作られたというのはちょっと意外な指摘でした。
日本でもアメリカの新保守主義に習って、年金や健康保険の民営化や、制度の分割をしようとしてますが、少子高齢化が進んでいた分と、デフレ不況があったぶん、格差社会の到来がアメリカより一足早く来た感じです。
幾つか欠点があり、本書の価値をいくらか損なっている。
(1)全訳でない。
訳者は日本の読者になじみがない部分を削ったと言っているが、どうも訳者が理解できない部分を削ったような気がする。
削った部分に結構割と重要な事柄が書いてありそうな気がしてしょうがない。
(2)翻訳が固すぎる。
分量から考えても、本書をクルーグマンは一般人向けに平易な言葉で、書いていると思う。
「ループゴールドバーグ機械と比較した」なんて、めちゃくちゃ固い訳文だが、要するに目覚ましが鳴ったら無駄に複雑な機械がおもりやら磁石やら、ロープ屋らで、ビー玉が転がって、卵を割って、朝食のハムエッグをフライパンで作る、アレだ。
クルーグマン先生は、そんなに固い口調でものを言ってないと思うぞ
(3)経済について訳者は力不足だと思う。
(4)解説が通り一遍で、経済学から見たクルーグマンの主張の妥当性とか、レーガン以降のアメリカの政治事情の解説がかなりないと日本の読者には分からないと思う。山形浩生氏の翻訳なら、本文の内容が良く理解できる解説がうんと付くと思う。
(レビュー日:2008-09-18)
日本は?
人種問題はどうやら「移民大国」アメリカの原罪らしい。アメリカはこの問題に永遠に付き合わなければいけない。それに比べれば日本はまだ幸せな国だと言える。
端的に言えば、本書はオバマ候補への応援演説である。しかし当初の目的はその通りでも、本書はそれだけに留まらず、多くの示唆を与えてくれるだろう。
著者はアメリカ人の収入格差が、1980年代以降急速に広がった、と言う。それはレーガン大統領の時代であり、共和党の時代と一致する。
一方これは、ルーズベルトのニューディール以前の時代に戻っただけで、ニューディール以後の30年間が、格差の圧縮された、アメリカとしては特異な時代だったのだとも言える。
しかしその時代は中産階級が繁栄した理想的な時代だっと著者は言う。そして、アメリカをそのような時代に戻すべきだと言うのだ。
そのために先ず行うべきことは、国民皆医療保険の創設であるとする。そして、今までアメリカで国民皆医療保険が実現しなかった真の理由は、人種差別だと指摘する。
また、アメリカの経営者は、分け前を取り過ぎている。彼らの貪欲には限界がないようなので、これには何らかの歯止めが必要だろう。
一方、日本は色々問題はあるが一応国民皆保険が存在する。しかし、日本の経営者もアメリカの経営者に習って高給は取るし、雇用者の給料はケチるしで、格差は開いてきている。この問題に対する解答は本書には当然ない。これは我々が考える他ないのだ。
(レビュー日:2008-08-31)