カート ヴォネガット
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(ISBN : 4140812516, 2007-07-25)
ヒューマニズムを擁護する
ヒューマニストという語が死語になって久しいが、随所に出てきて感慨深かった。特に9章のユージン・デブズのことば
下層階級がある限り、私はそのうちの一人だ。
犯罪者がいる限り、私はそのうちの一人だ。
刑務所に一人でも誰かが入っている限り、私は自由ではない。
が強烈だった。
格差社会が問題なのではない。格差社会の下の階級に立とうとする者がいないのが問題なのだ。カートが考察するように、こうした間違った社会になったのはサイコパスが迷いなく、毎日、目標に向かってこつこつやり続けるせいなのだろう。抵抗せねばならない。
6章の「わたしは『ラッダイト』と呼ばれてきた」が秀逸。ワープロを使わないのでタイプライターによる清書が必要になり、しかもメイルでなく郵送する必要があるため、タイプライターと電話で話し、封筒を買い、切手を買うまでどれほど多くの人とやり取りすることになるかを描き出している。効率主義への地味な抵抗は、明日からでも始められるだろう。
カート自身は書いてないが、彼に話しかけられた行列待ちの人は、面倒くさい奴、と思いながら、でも徐々に楽しい気分になったんだろうな、と思う。まるで「EQ」(ダニエル・ゴールマン)の序章に出てくるニューヨーク市民を微笑ませたバスの運転手のようだ。われわれが普通の感情を取り戻すために、サイコパスへの地味な抵抗は、明日からでも始められるだろう。 まず、効率を求めてかえって疲れるより、楽しみながら無駄を手に入れていこう。
(レビュー日:2008-03-16)
明日への希望、寿命84歳!
ヴォネガットのように84歳で死ぬ男性が多い。私の親父も84歳で死んだし、そういえばあの人もそう、かの人もそうって数えていくと結構な人が84歳で死んでいる。「84歳は、死の年!」なんて論文風土が開拓されたりして。閑話休題、この本は、ヴォネガットの最後のエッセイ集、極端なまでのアメリカ嫌い、ブッシュ嫌いが文章の端々に現れている。アメリカという国は、自他共に認めているように「ヨーロッパの落ちこぼれによって創られた国」である。ヴォネガットも「ドイツ系」である。その落ちこぼれが、アメリカで蕾を膨らませ花を咲かせた♪。WASPならとてもこんなお下品な言い回しはしないだらうと思わせる表現が、散見される。もっとも、訳者の金原瑞人は、あのスリット・タン作家、あの金原ひとみの親父ということを考えると、「なるへそ!どーりで、へえ、そう、似たり寄ったりのおやこ!」と感慨深げ。
再び、股旅、閑話休題、オリガミ・エクスプレス製のシルクスクリーン、なるほどよくできている。このスクリーンは、オフィシャルホームページからも覗くことができるので、vonnegut.com にアクセスしてみたらア?
ただ、残念なのは、NHK出版が太田光ごときに腰巻用の推薦文を書いてもらわなければならなかった事だ、彼のおかげで本書の良さがぶち壊しだア。
(レビュー日:2008-01-07)
この人の本を若い時に読みたかった
ヴォネガットの本は、思想的に固まっていない若い時期に読むのがいいのではないか。
読んでいると必ず眠くなって、何度も途中で読書が途切れてしまった。
それはなぜかをずっと考えて出た結論がそれだ。
内容には全く問題はない。
戦争を商売にしているアメリカへの批判。
環境問題をなおざりにしてきた人類への批判。
その裏にある人間への愛情。
どれも納得できるものだし、これこそがヴォネガットなのだろう。
でもなぜか読んでいると5分もせずに眠くなってしまう。
僕は読書が嫌いな方じゃない。
むしろ読み始めたら止まらなくなって、食事も忘れるような人間だ。
眠くなった理由は恐らくみっつある。
ひとつは、自分が最初に読んだヴォネガットの本だったということ。
ヴォネガットに対して全く先入観のない状態だった。
裏を返せば、ここで絶賛している方たちのようには、
彼に対する敬意であったり、その思想に対するシンパシーが
なかったということだ。
ふたつめは、ヴォネガットの影響を受けた思想家たちの本を読みまくってきたこと。
ましてやこの本はヴォネガットの遺書のようなもの。
それまでの集大成としての性格を持っているはずであるから、
どこかで読んだことがあるような内容だったとしても無理もない。
みっつめは、ジョークがあまり笑えなかったこと。
ブラックでちょっとアメリカンなジョークが残念ながら自分の肌にはあまり合わなかった。
良い評判が多かったので読んでみたが、あまり楽しめなかった。
それは本が悪いというわけでは決してなくて、
読むタイミングが悪かったのだと思う。
自分が影響を受けた思想の元祖である可能性が高いこの人の本を、
もっと若い時に読んでおきたかった。
ただ、環境問題についての人間に対するあまりに悲観的な考え方だけはあまり賛成できなかった。
自分は、人間はそれほど馬鹿じゃないし、環境問題に対する人類の努力は
決して無駄になっていないと思っているから。
(レビュー日:2007-12-11)
「カートはいま天国にいるよ」
全ての現代の若者たち(自分も含め)が手にとるべき一冊であると思う。
アメリカへの批判、人間がいかに愚かか、世界への絶望などを辛辣な言葉で語っているが、そのなかに垣間見られる、ヴォネガットの人間への愛情。そのやさしさに私はほっとさせられてしまう。
(レビュー日:2007-12-05)
アイロニックな表現でアメリカを切る
今年4月に亡くなったカート・ヴォネガットの遺作です。82才と思えない力があって、胸に迫ってくる作品です。
文章は、ユーモアに溢れ、アイロニックな表現で、アメリカをブッシュをこき下ろします。その筆の冴えに、喝采を送りたくなります。
文明の進歩を批判し、地球への、そして人間への愛情を感じさせてくれます。彼は、「人間主義者」と自らを評しています。人間を愛し、他人を助け合う社会にしたいと彼は言います。人は、一人でも多くの繋がりを持ちたいのだと。だから、結婚もし、家族を作るのだと。「コミュニティ」の復活が、彼の望んだことなのでしょう。
その裏には、ドイツ系アメリカ人として、「国のない男」として、アメリカへの失望が大きかったのでしょう。
そんな彼が讃えるのは、リンカーンであり、マーク・トゥエインです。彼らの文章が沢山引用されています。
それにしても、これだけアメリカを批判した本がベストセラーになる、これが良くも悪くもアメリカなのでしょう。
(レビュー日:2007-11-01)