著者についての予備知識がないにもかかわらず、しかも本書を3分の1読み進める前に、著者の作品に対する「思惑」を読みとれたとしたら、読者の恐るべき直観力に敬意を表する。
など、単に当方、飛行機内の時間つぶしで「ボーッ」と読んでいたので、分からなかっただけかもしれないが。
とどのつまり、3分の1読み過ぎるまで、クレゾールの匂いとほのかな時に濃厚なロマンスの芳香を嗅ぎ取っただけで、最終的なストーリーの行方をつかむことはできなかった。
舞台は南仏マルセーユと近郊の港町カシス。主人公は日本人の精神科アンテルヌ・インターンとだけはお伝えしておこう。
安易に汲み取れない展開の行方ゆえに、読み出したら止まらない。法事ごとで田舎への行き帰りの機内で居眠りせず仕舞い。ちょっとした空き時間でほとんど読んでしまった。家に帰り着くや、ラストを読み込んだ。
著者の本領発揮分野だけに、ディテールの積み上げは見事。長々しい説明はストリー展開の厚みと説得性に貢献こそすれ、邪魔にはならない。
面白く読み終え、しばらくしてちょっと「ゾワーッ」ともさせてくれる。旅行のお供なんぞにちょうどよい量のお勧めの文庫本!この著者の手になるもの、続けて何作か読んでみたくもなる。
外科医の水野は日本で実績をあげ、フランスで勤めている。そんな中マルセイユの大学病院で首なしの死体が見つかる。しかし被害者のレントゲンやカルテは消失。その後あわただしくなる周辺の状況。疑問を覚え調査を始めた水野。シモーヌというパートナーも得た中危機感を感じずにはいられなくなる。
うん、上手い。盛り上げ方はどうかだがキャラクターが本作でも上手に描かれていると思う。何より主人公の魅力を重視したいわけだがそうではなく周りにあると思う。シモーヌの存在も必要不可欠だ。
どうしても本作は帚木にしか書けないなあ、と思う場所はいくつかある。まずはリアリティ。構築もさることながらどうやって医学ものをのミステリーを創り上げ読者を納得させることが出来るか。どれだけ自分の手腕を小説に生かせることが出来るか。フランスでの本人の経験は必要不可欠。情景描写が素晴らしい。それによって読後の余韻がどーんと残った。
割と本作の筋は見えてくるわけだが水野はどうする。そしてどうなる、のかが注目される。スリリングなサスペンスとしての味も上々たるものだ。
個人的に惜しいかな、と思ったのは決め手に欠けることかな。良作、とは思わせてもそれ以上の秀作にはならないと思った。しかしながらシモーヌという存在を上手に創り上げたものだ。足りなかった部分は最後に補足されている。というかそれこそが答えか。
一作しか読んでいなかったが丁寧な作家だと認知することが出来た。また他の作も読んでみよう。