10人の執筆者がそれぞれの担当作家の名品の中から選りすぐった文章に、解説を付している。短いフレーズでこのテーマの百態を紹介して、読み応えがある。抜粋の一部しか挙げられないのは残念であるが…
そヾろに床しき思ひは有れども、手に取りあぐる事もせず空しう眺めて憂き思ひあり(樋口一葉「たけくらべ」)
それでもわたくしは今、たった一つ、天の国にいるあの人に、消息する方法を見つけたのです。それはすぐ消える、あの夏の夜の花火をあの人のいる天に向って打ちあげることです(中河与一「天の夕顔」)
疲れはてているお顔だった。犠牲者の顔。貴い犠牲者。私のひと。私の虹。マイ・チャイルド。にくいひと。ずるいひと(太宰治「斜陽」)
「覚えておいて。殺しても飽き足りないくらい好きよ。わかった?」(松浦理英子「ナチュラル・ウーマン」)
神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ。美しいと思わないかい?」(小川洋子「博士の愛した数式」)
彼の中には、普通の人が持っているさまざまな感情のフィルターの代わりに、美しく磨かれた水晶の万華鏡がある(桜井亜美「イノセント ワールド」)
わたしの小さな光のために/まわりの闇が もっと濃くなる/わたしにはあなたがみえない/あなたのなかの闇がみえない(吉原幸子「続・吉原幸子詩集」)
(レビュー日:2007-03-31)